精神保健看護学領域

精神保健看護学領域 概要

人々がその人らしく生きることを援助する

精神保健看護学では、人間の行動や思考、感情などを対人関係のダイナミクスのなかで理解するとともに、人々がその人らしく生きることをどのように援助できるかを考えていきます。具体的な方法としては、精神科病院や地域リハビリテーション施設などでのフィールドワークを通じて参加観察を行い、ゼミで報告・分析するという方法で質的な研究を行っています。それは、その場の状況や文脈をふまえた的確な観察と関与ができるように院生をサポートするとともに、現場に根ざしたリアリティのある研究と精神保健看護の実践者の養成を目指しているからです。「実践は研究的に、研究は実践的に」が本研究室のモットーです。

実践の場でさまざまな疑問や問題意識を抱いている方、さらなる自分の可能性を開拓していきたい方、またCNSを目指す方々の挑戦をお手伝いできるような指導を行っていきたいと考えています。

研究指導教員

小宮 敬子

日本赤十字看護大学 教授(精神保健看護学)

私が関心をもっているのは、自分とは異なる他者を、かかわりながら理解していくプロセスです。人とかかわる時、私達はさまざまな感情を抱きますが、それは必ずしも肯定的なものばかりではありません。しかし否定的な感情の中に、相手を理解する意外な「鉱石」が潜んでいることがよくあります。とりわけ精神障害を抱える当事者の人々は、言葉を使って伝えることが不得意なことが多いこともあり、そのかかわりのプロセスには、思いがけない「鉱石」がたくさん隠れています。それを発見していく面白さと難しさが、精神保健看護学の魅力でもあります。それを一緒に探究してみませんか。

鷹野 朋実

日本赤十字看護大学 教授(精神保健看護学)

看護師として勤務していた東京都立松沢病院の歴史に興味を持ったことが契機となり、精神医療や精神医療関連の施策の変遷に関する研究をしています。また、本学看護歴史研究室の一員でもありますので、第二次世界大戦時にフィリピンに派遣された日本赤十字社の救護看護婦たちの活動状況をまとめるなど、医療・看護に関する歴史研究を幅広く行っています。

精神保健看護学の領域では、大学教育における看護学生のコミュニケーション能力を育成するための指導・支援方法や、‘感情労働’という視点での医療従事者のメンタルヘルスをテーマとして、研究に取り組んでいます。

堀井 湖浪

日本赤十字看護大学 准教授(精神保健看護学)

私は、精神科で働く看護師のリフレクションを研究テーマにしています。看護師が患者との関わりにおいて自分自身が何を感じ考えているのかを認識し、それを関わりに活用できると、展開が大きく変わることを実感しています。患者と関わる看護師の感情体験を吟味することは重要です。そうすることによって、患者との間で何が起こっているのかの解釈や、患者の理解が深まり、その結果、適切なケアの提供につながっていくと考えています。それはまた、看護師自身をサポートすることにもなるだろうと思います。 大学院ではさまざまな理論も学習します。それらも活用しながら、じっくり考える余裕のない現場から少し距離をおいて、いったい何が起こっていたのかを一緒に探求してみませんか。

古城門 靖子

日本赤十字看護大学 講師(精神保健看護学)

私はこれまで、総合病院でリエゾン精神専門看護師として11年間活動してきました。その経験は、高度実践看護師としての役割を切り開く挑戦の連続でした。その一方で、医療現場で苦悩する患者、そしてその患者をケアする看護師をはじめとする医療従事者とともに歩み、多くの学びを得た経験でもありました。今後は、医療提供システムが大きく変化していくなか、看護のあり方も常に模索していくことが必要です。これまで積み重ねてきた現場での経験を活かしつつ、高度実践看護師の教育に携わりながら、皆さんとともに今後の精神保健看護のあり方について考えていきたいと思います。

精神保健看護領域の専門看護師、高度実践看護に興味のある方、ぜひご一緒に新たな挑戦に取り組んでまいりましょう。お待ちしております。

領域の特色

研究活動-人々や現場のリアリティを大切に

精神保健看護学領域の研究活動は、人々や現場のリアリティを大切にしています。その代表的なものは「感情」です。看護学の分野では、これまであまり感情に焦点が当てられてきませんでしたが、看護を相互作用という観点から捉える上では、クライエントと同時に、看護師自身の感情も重要な要素となります。研究の主なキーワードとしては、感情労働、共感疲労(二次的PTSD)、リフレクション、エモーショナル・リテラシー、看護師のメンタルヘルスなどです。これに加えて、セルフヘルプ・グループ、実習指導、歴史研究、グループワークに関する研究も行っています。こうしたテーマに関心のある方、ぜひ一緒に研究に取り組んでいきましょう。

教育活動-クリニカルゼミ

本研究室では、大学院生のフィールドワークを検討するためのクリニカルゼミを開催しています。院生は週1日フィールドワークを行い、そこでの出来事を自分の感情も含めて、フィールドノーツに詳細に記述します。それをもとに、一人あたり90分をかけて、そこで何が起こっていたのかについて教員と院生とで検討し、解釈を深めます。そして新たな知見・仮説をもってフィールドワークを行うという円環的なプロセスをとっています。フィールドワークでは、感情を揺さぶられる体験もします。クリニカルゼミは、フィールドワークを行う院生のサポートグループの機能も果たしています。

社会貢献と実践-精神科看護事例セミナー

本研究室では、第4金曜日に年間8~10回、卒業生や大学院修了生を中心に現場で働く看護師の方々と、精神科看護事例研究会を開催しています。このセミナーは、1997(平成9)年、看護師同士が自分たちの実践を振り返るピアレヴューの会として発足しました。検討される事例は精神科が中心ですが、それ以外にも一般診療科や訪問看護ステーション、社会福祉施設、学校保健などの多様な領域から、個別のかかわりやグループなどさまざまな事例が提供されています。ここでは、参加者が自由に自分の気がかりや体験を語り合うことで、それまで見えていなかった新たな視点やかかわりの糸口を発見することができるのが特徴で、ナースのピアサポートの場でもあります。

院生・修了生の活躍

松本佳子さん

1994年度修士課程修了
2010年度博士後期課程修了

現在私は、大学の教員として働いています。修士課程には、精神科での経験がないまま入学したこともあり、精神科でのフィールドワークとその振り返りのゼミは、目からうろこの連続でした。現場で起こる葛藤状況やその背景にある臨床状況の捉え方の視点など、これまで触れたことのない学問の世界に足を踏み入れる体験でした。この体験が、後に精神科で10数年看護師として働く際の私の資産となっていたと思います。時を経て博士課程にも進学しましたが、この時のフィールドワークも臨床時代には消化できなかった課題と向き合う得難い体験となりました。そして今、大学院で得た有形無形の資産をいかに次の世代へのバトンとしてつないでいくか、模索する毎日です。

曽根原純子さん

日本赤十字社医療センター 精神専門看護師
1998年度修士課程修了

私は現在、リエゾン精神専門看護師として働いています。長年がん患者にかかわり、燃え尽きることなく働き続ける支援をしたいと思い、リエゾン領域のCNSを目指しました。しかし大学院の指導教員から「精神科看護の経験がない人がリエゾンナースなんて10年早いわよ」と言われ、不安一杯で始まった大学院生活でした。精神科病院での1年間にわたるフィールドワークとその振り返りのゼミでは、精神保健看護学の「人や物事のとらえ方」に衝撃を受けてばかりでした。しかしこの体験は、組織に入り込んでいく際に味わう孤独感に耐えながら、「この集団に何が起こっているのか」を見る視点を培い、精神科リエゾンチームの一員としてのCNS活動の礎になっています。

齋藤文代さん

成増厚生病院 師長
2003年度修士課程修了

大学院修了後、民間の精神科病院に就職し、数年後に主任職を経て管理職になりました。院生当時は、自分が管理職に就くとは思ってもみなかったので、もっと管理を学んでおけばよかったという思いはあります。しかし、臨床現場では、患者理解のみならず、スタッフの組織理解は、大学院で学んだ集団力動の視点がそのまま生かされています。

病院という大きな組織の一端を担う者として、ビジョンを明確に持つことが管理職の役割だと思っています。そしてその目標を実践の中で具体化し、仲間たちと共有することも必須です。組織はまさに生き物です。面白さや奥深さを感じながら、スタッフに伝えていきたいと思っています。

学位論文テーマ

博士論文テーマ

  • 精神科病院に長期入院する高齢女性が語る「生きている世界」
  • 精神看護学教員の学生とのインタラクションをめぐる体験
  • 精神科病棟における患者の語りを聞く看護師の体験
  • 精神科病棟における演劇的体験としての「娘グループ」-傷ついた女性同士がつながることは可能か-
  • 精神と身体の疾患を併せ持つ患者の生と死-精神科身体合併症病棟と町のエスノグラフィー-

修士論文テーマ

  • 甘えの観点から見た精神科男女混合慢性期閉鎖病棟における患者との関わりの特徴
  • 精神科病院女性閉鎖病棟における相互交流の様相-「とまり木」の試み-
  • 脱施設化に向かう精神科病院に長期入院する患者の生活と思い
  • 長期入院患者を対象としたお茶会グループの実践-精神科慢性期男女混合病棟におけるアクションリサーチ-
  • 「介護疲れ」をきっかけにストレスケア病棟に入院した高齢女性患者たちの体験
  • 病棟ホールでの患者同士の関わりの様相-精神科開放病棟における参加観察より-