小児看護学領域

小児看護学領域 概要

子どもの成長発達と生活環境を理解し、子どもと家族の健康を増進するための諸理論を学びます。

小児看護学(修士課程・博士後期課程)では、健康な状況にあるときや、急性期、慢性期、ターミナル、障がい、在宅などあらゆる状況にある子どもの最善の利益を基本に、子どもの成長・発達と生活環境を理解し、子どもと家族の健康を増進するための諸理論を学びます。また、その子らしく成長・発達できる子どもと家族へのケアの質向上を追求する実践と研究方法を探求します。さらに、時代の変化や子どもが過ごす文化を反映した理論とその課題を探求します。修士課程には小児看護専門看護師の教育課程も置き、高度実践看護師の育成を行っています。

研究指導教員

江本 リナ

日本赤十字看護大学 教授(小児看護学)

私が最初に研究活動を始めたとき、病気を患う子ども達が持つ力に関心を持ちました。臨床で働いていたとき、子ども達がどんなに辛い状況にあっても、ふと笑顔を見せるときがあり、どういう体験をしているのだろうと気になったのがきっかけです。子どもが状況を克服したり、物事に取り組んだりすることに興味をもって研究を手掛けました。

次第に、子どもの周囲にある環境も重要だと思うようになり、人的環境や物的環境を含めた子どもの療養環境に関心を持つようになりました。幸いにも、海外の小児医療を視察する機会を得ることもあり、日本との比較を楽しんでいます。

最近は、子どもと家族が過ごす地域のなかにある看護にも関心を持っています。これからの時代、地域で暮らす子どもと家族のために活躍できる看護師の力が求められていると確信するからです。そこで、子どもと家族の多様なニードに応え、医療機関と地域とを繋ぐことができる高度実践看護師の育成と、社会へ発信できる人材の育成を目指しています。

地域にある訪問看護ステーション、クリニック、保育園、特別支援学校、児童福祉施設などで働く看護師の方々とも共に看護を追求していきたいと願っています!


小児看護学教員が「小児看護」2015年8月号に掲載した記事も、是非ご覧ください。

吉野 純

日本赤十字看護大学 教授(小児看護学)

私は、子どもの体調不良時のホームケアについて関心があります。親が子どもの健康を管理し、体調不良に適切に対応できるようになることは、子どもに安心を与え健全な成長発達につながります。そのような体験を積み重ねながら家族が成長できるような支援を考えています。
また、地域で子どもや家族をサポートしている人たちにも、子どもの健康について理解してもらえるよう働きかけを行っています。病院や外来だけではなく、保育所や学校、子育て広場など地域全体で子どもの健康を見守り、家族を支援していくために看護ができることを研究しています。

 大学院では、今までの自分の経験やその中で培われてきた考えを強みにしながらも、そこに固執することなく、さまざまな人や書物とディスカッションしながら、自分自身を見つめ直し深めていくことができます。子どもと家族の健康、発達に興味のある方、ともに学び探求していきましょう。

山内 朋子

日本赤十字看護大学 准教授(小児看護学)

領域の特色

小児看護学領域のカリキュラムの紹介

小児看護学領域では、子どもの成長発達と生活環境を理解し、子どもと家族の健康増進に不可欠な諸理論を学び、時代の変化に応じた看護学を探求します。また、博士後期課程では理論、現象、看護実践を言語化することを学びます。

修士課程に置かれている高度実践看護師教育課程(CNS)は平成17年度に開始されました。平成27年度には、38単位教育課程が認定された10校のうちの1校に加わりました。CNSコースでは、経験豊富な小児看護専門看護師、小児科医師による実践に即した演習や実習が展開され、病棟のみならず地域に根差した実習から、子どもと家族の包括的なアセスメントと共に医学的臨床判断に基づいた看護を探求します。本学全てのCNSコースに共通して、高度機能を有した成人モデルと小児モデルを用いたシミュレーション教育が行われており、多様なスキルと判断を学ぶことができます。

小児看護学領域の大学院教育課程が筒井真優美名誉教授によって開設されて以来、小児看護学領域の修士課程を修了された方は59名、博士後期課程を修了された方は11名、うち18名が小児看護CNSとして認定されています。修了後は臨床家として研究者として、ケアの質を高める頼もしい活躍をしておられます。

カリキュラムの詳細は修士課程および博士後期課程のシラバスをご参照ください。

修了課程シラバス 博士後期課程シラバス

研究活動

修士・博士後期課程では、子どもと家族にかかわる看護について探求し、オリジナリティのある論文作成に取り組んでいます。論文における研究方法は研究課題に応じて質的または量的研究を選択していますが、学生の多くは質的研究を行っています。

修士課程では、学内外での講義、演習、実習を通して自らの課題を追究し、文献学習を行い、既存の知識との関連性を考えて新たな知見を実践の中に応用できる基礎的能力を養いながら、研究を進めていきます。博士後期課程では、さらに哲学・看護学の歴史的流れ、理論の分析、概念分析を通して新たな知を創造していきます。

ゼミは小児看護学領域専攻の修士・博士後期課程の学生全員で行われるため、豊富なディスカッションから多角的で客観的な視点が養われ、研究の妥当性、信頼性を高めていくことができます。

その他にも、臨床の看護研究指導にかかわったり、教員の行う科学研究費助成事業の研究協力者として加わるなど、様々な研究に触れる機会も多く、その中で研究のスキルを磨いています。

小児看護学研究会(Children and You)

病院や地域で子どもと家族にかかわる看護師や、医師・保育士などの専門職者、本学の教員・大学院生が、実際に臨床場面で対応に困っていること、援助の方向性について悩んでいることについて、事例を通して考えたり、小児看護に関連したテーマのディスカッションをしたりしています。現場で直面している看護の難しさやモヤモヤを言葉にして人に伝えること、また他施設の看護師や他職種がそれぞれの経験や考えを共有しあうことで、自分の行っている看護の意味を再確認し、小児看護の魅力を再発見するきっかけになればと思っています。

年間8~10回(約1回/月)学内または遠隔で行っていますので、子どもと家族へのケアについて、様々な施設の看護師や多職種と意見交換をしてみたいと思われる方は、ぜひご参加ください。

 

2023年度後期 研究会日程

院生・修了生の活躍

長田 暁子

横浜市立大学附属市民総合医療センター勤務の後、大阪府立大学
小児看護専門看護師
1992年学部卒業/1999年度修士課程修了

私は、本学を卒業した後、大学病院の小児病棟で臨床経験を積む中で、子どもが持つ力の‘すごさ’を実感しました。そして、健康上の問題や心配を抱える子どもとその家族が、健やかに成長して生活してゆけるような看護のスキルを身に付け、長く小児看護に携わり続けたいと思い、本学の大学院に進学しました。修了後は、臨床現場に戻って小児看護専門看護師の資格を取得し、‘子どものケアを専門とする看護師’として、病棟・外来、診療科を問わず、お子さん、ご家族、医療スタッフの悩みを解決するお手伝いをする活動をしていました。在宅医療が必要なお子さんが、NICUから小児病棟を経て、少しずつ自宅での生活を実現してゆくプロセスを支援しながら、病院内外での支援体制づくりに関わったり、子どもの養育環境を整えて虐待や不適切な養育を防止する支援を行ったりすることで、看護職だけでなく多くの職種・機関の専門家と協働する意義や楽しさを感じました。25年の病院勤務を経て、現在は大学で小児看護学の教育・研究を行いながら、専門看護師としてのキャリア発達についても模索しています。

太田 有美

名古屋赤十字病院
小児看護専門看護師
2005年度修士課程修了生

2010年に当院の外来の全面改築が行われた際、子どもが病気という逆境を利用して成長できるよう、子どもの持つ力を最大限に活かせるための環境づくりを目的に、小児外来のウォールペイントに取り組みました。

外来で子どもが安心できて、親しみが持て、数字の読めない年齢の子どもにもわかるよう動物を主人公にした物語を考えました。協働してくれた大学の先生や学生さん、建築の関係者、病院の外来担当者には、小児外来のコンセプトを理解してもらい、使われる素材などでは、何度も話し合いが行われました。

実際のペイントの作業は大学関係者と病院関係者が共同で作業し、3日間で仕上げました。当院は元々山の中に作られた病院なので、森の中のさるたちが遊んでいるプレイコーナーから一つの種が持ち出され、動物たちの関わりによって花に成長していく姿が各診察室の扉や処置室内に描かれました。作業過程では、外来事務の課長より絵の主人公のさるに“もんぱち”という名がつけられました。

ウォールペイントされた小児外来では、絵を見て癒されるという声を聞いたり、待合室で泣き続ける子どもは見かけなくなりました。様々な専門家と協働する過程では、CNSとして子どもの目線、行動を伝える役割を果たせたと思っています。

学位論文テーマ

博士論文テーマ

  • 重度障がいのある乳幼児を訪問する看護師の実践の様相:自宅で生活を始めてからの1年間に焦点をあてて
  • 児童精神科病棟の自由時間のホールで展開される発達障害の学童への看護師のかかわり
  • 通所施設における重症心身障害者と看護師とのコミュニケーションとケアの形成
  • 幼少期から気管支喘息をもつ学童後期・思春期の子どもの「病い」の体験
  • 小児看護学の教員が語る学生・子ども・母親とのあいだにおける実習指導の困難さ

修士論文テーマ

  • 外傷を負ってPICUに入室した乳幼児の養育者への看護実践
  • 繰り返される治療と向き合う小児がんの幼児後期の子どもへの看護
  • 児童養護施設で暮らす慢性的な症状のある学童期以降の子どもの健康とその自立に向けた看護実践
  • 混合病棟で大人と子どもを受け持つ看護師が子どもの入院中の生活を整えるための看護
  • NICU・GCU退院後の子どもと親へ関わるフォローアップ外来での看護師の支援
  • 重症心身障がい児とその家族への看護実践の魅力
  • 小児病棟で働く看護師の自信につながった子どもと家族への看護実践:卒後3年目の実践を振り返って
  • 小児集中治療室に入室している子どもの親が抱く思いやニーズに対する看護実践
  • 夜尿症と診断された子どもの学童期の宿泊行事に向けて母親がとった夜尿対処行動
  • 小児慢性腎疾患がある幼児後期の子どもに病気を知る機会をもたらす看護師の実践
  • 在宅維持期における重症心身障がいのある学童への訪問看護師の実践
  • 緊急入院をした急性期にある幼児と付き添う家族への看護師のかかわり