がん看護学領域

がん看護学領域 概要

がん看護、緩和ケア領域における現象を掘り起し、臨床の知を探求します!

がん看護学では、がん患者さんや家族の支援においてもっとも重要な「当事者の視点」を大切にしています。当事者としての患者、家族、看護師の体験のリアリティに近づき、言語化されにくい様々な臨床の知を掘り起こすこと、それらに基づいた患者・家族支援の方法論、援助論を探究することを目指しています。経験の成り立ち、現象そのものの成り立ちや意味をいかに探求するかという視座から、現象を分析、意味関連の構造を紐解くことで、現象の新たな一面が見えてくる、そんな丁寧なアプローチを大切にしています。

研究コースでは、がん看護だけではなく、緩和ケア、エンド・オブ・ㇻイフケアについて学びたい方をお待ちしています。もちろん、がん看護CNSを目指す方のコースも充実しています。そして、なによりも研究コースとがん看護CNSコースの院生が、共にこれまでの臨床経験について意見交換し、自分の考え方や実践を振り返ることが大切な学びの場となっています。

 

研究指導教員

守田美奈子

日本赤十字看護大学 教授(がん看護学)

私はこれまで、がん患者や家族へのサポートに関する研究や、緩和ケアの実践知に関する研究に取り組んできました。実践の知を探求するときに、まず大切になるのは自分の視点を見直したり、それを自覚することだと思います。

さまざまな前提や思い込みを全て外すことはできませんが、それを横に置いたり自分の前提を疑ったりしたときに、新たに見えてくる看護の世界があります。これまで捉えていた看護とはまた別の看護の世界が見えてきた時、私達は驚きや発見の喜びを感じるのです。

現象学では「事象そのものへ」というフッサールの有名なことばがありますが、私達の研究室で目指しているのは、このような態度です。

実践を振り返り、看護現象を研究的に探求することを通して、このような驚きや喜びを、院生の皆さんと共に味わいたいと思っています。看護は奥が深いとよく言われますが、その奥深さを学的に探求する姿勢を皆で共有し、フランクに意見交換をすることで、実践能力も同時に高まると私は考えています。そのような方法で、皆さんと共に学び合いたいと思います。

がん看護や緩和ケアを深めたい、あるいはその能力を高めたい、と考えている方、ぜひ私達の研究室を訪ねてください。そこから新たな世界への一歩が始まりますよ。

吉田みつ子

日本赤十字看護大学 教授(がん看護学)

私はこれまで緩和ケア、がん患者や家族の支援としてのサポートグループの実践や研究を行ってきました。最近はがん以外の疾患の緩和ケア、看護専門職のケアリング、倫理、実践知についても、関心を広げています。臨床で出会う様々な出来事は、私をいつも看護の原点は何かと問いかける大切な源です。大学院生の皆さんと、新たな可能性にチャレンジしきたいと思っています。

自分が大学院生だったころのことを思い出すと、研究テーマを絞っていく過程で苦しかったとき、大量のデータの中から何が見えるのだろうかと先が見えずに不安なとき、臨床で自分自身が感じていた実感、言葉にしづらくても確かに経験してきた現象を表現したいという思いに支えられてきたように思います。

樋口佳栄

日本赤十字看護大学 准教授(がん看護学)

私は、当事者自身が体験していることにとても関心を寄せています。いろいろな方の語りに耳を傾けていると、はっとすることや、なるほどそういうことだったのか…といった深い理解に出会う瞬間があります。その瞬間がとても味わい深く、そういうことを看護として著わさないとなあと感じています。
もう一つは、からだ(身体)です。看護実践のなかに見え隠れする身体の様相をいろんな切り口で探求しています。
大学院の皆さんとは、がんという病いを切り口にしながら、「人間」や「看護実践」の在りようを一緒に探求したいですね。

領域の特色

がん看護学領域のカリキュラムの紹介

修士課程

がん看護に関する病態生理学、看護理論、援助論等に加え、診断時から終末期までのがんリハビリテーション看護(心理社会的支援を含む)、緩和ケアに関する科目を設け、がんや緩和ケアを必要とする人々へのケアとそれらに携わる看護専門職への教育、研究の基盤となる科目を設けています。研究コースの方、CNSコースの方、ともに修士論文に取り組みます。

がん看護CNSコースは2008年度(平成20年度)に開設し、2009年度に初めての修了生を送り出しました。2020年度までに25名が認定審査に合格しCSNとして医療施設等で活躍しています。

博士後期課程

博士後期課程は、「基礎看護学」領域として、緩和ケア・がん看護はもちろんのこと、慢性疾患やや高齢者の病い体験に関するケアを探究したい人などが、自己の研究課題を深めています。博士後期課程の院生は、ほとんどが臨床、教育の場で仕事を継続しながら在籍しています。

研究活動

がん看護学領域では、研究コースとCNSコースがあります。どちらのコースも、臨床の中で出遭うさまざまな経験を土台に、経験や現象そのものの成り立ち、意味について探求することを大切にしています。その手がかりとして、現象学的なアプローチ、質的な研究方法論を学び、意味関連の構造を紐解くことにチャレンジしています。研究・教育者を目指す人、CNSを目指す人も、土台となるのは、ありふれたように見える現象の新たな一面をどう発見するかということです。院生、教員ともに、お互いの経験を尊重しながら対話し、学びを深めています。

院生・修了生の活躍

鴨川 郁子さん

がん研究会有明病院 がん看護専門看護師
2010年度修士課程修了

私は、明確な研究テーマもなく、漠然と「大学院に行ってみたい」という思いを抱いていました。そんな時、先生に受験の相談をした時に、大学院で学ぶ中でテーマを探せばいいとの言葉に安堵し、大学院を目指しました。

入学してみると、修士生は壁で仕切られることがない一つの部屋で、2年間を共に過ごします。私は、入学して改めて「世の中、こんなに朝から晩まで勉強をする人がいるの」と、驚いたものです。院生室での2年間は、学年・領域を超えて、さまざまなことを語り合える場であり、学びの場であり、出会いの場でした。

講義の場では、「あの時、あの患者さんは・・」と、これまでの体験が触発され、先生・院生達と共にリフレクションすることで、新たな発見をし、体験の意味が大きく変わりました。また、入学当初は「ち」と言えば、頭に浮かぶのは「血」でしたが、次第に「知」へと変化したことを思い出します。そして、一瞬の瞬きのようにあっという間に月日が立ち、「充実した毎日」というより「1日24時間では足りない」と思わされた2年間でした。

OCNS課程の実習では、「複雑で解決困難な看護問題をもつ人」と出会いしました。実習フィールドは、学生は一人で孤独ですが、自習で体験した内容を先輩方や院生、先生方と共に、体験の意味を丁寧にリフレクションし、その意味をもとにケアを実践し、患者が変化し、そして組織が変化していく貴重な体験をすることができました。

遠山 義人さん

日本赤十字看護大学助教
2019年度博士後期課程修了

私は本大学の卒業生です。講義や実習を通してがん看護の難しさとその必要性を感じ、現場でも学びたいという気持ちからがん専門病院に入職しました。臨床での患者さんや家族、医療者との関わりは、新たな気付きにつながりましたが、同時に多くの疑問や困難さを抱きました。3年目頃より病棟にも慣れ毎日があっという間に過ぎていくなかで、疑問を探究できないままにしている自分がいることに気付きました。

『このままではダメだ!』

すぐに母校である本校の恩師や職場の上司に相談しました。他校も検討しましたが、本学は修士課程の領域が充実しており私の探究したい『がん看護』が学べること、また領域の垣根を越えて教員や学生が相談し合うことができ意見を交わせる環境に魅力を感じ、本学の大学院への進学を決意しました。入学後、がん看護領域では学生それぞれの臨床経験を大切にし、新たな学びと経験をつなぎ意味付けをすることに取り組むなど、充実した日々を過ごしています。また、それぞれの領域で学ぶ同期と学習を共有することで、学びが何倍にもなっています。学ぶことができる喜びを感じながら、多くの仲間と看護について考えることができる今を大切にしていきたい、大学院で学ぶ今、私が強く実感していることです。

矢ヶ崎 香さん

慶應義塾大学看護医療学部教授
2013年度博士後期課程修了

私は仕事と学業を両立しながら博士後期課程を過ごしました。その3年間は決して楽な日々ではなく、指導教授や先生方および職場の理解によって何とかやり遂げることができました。その体験を少しご紹介します。

本学の特徴は、歴史ある学び舎で看護を探究できることだと思います。仕事の合間にいつも急いで大学に通っていましたが、本学の玄関を入った瞬間から日常とは異なる空気を肌で感じ、学ぶ者として心を切り替えることができました。これは言葉では表現しがたい感覚です。このような歴史、伝統は、博士論文を仕上げるまでの日々の緻密な努力、遠回りしていると感じるような地味なこともコツコツ積み重ねていく誠実な態度と忍耐力など、研究者の基盤となる能力を培うプロセスの大切さを実感させてくれました。研究においては当事者の視点を重視していることも特徴の一つです。また、本学はとてもアットホームな環境で研究指導が展開されます。研究科長や指導教授はもちろんですが他の教職員の方々も常に学生に関心を向け、尊重して下さいます。特に指導教授とのゼミは勤務後、夜間に行っていただくことも多く、感謝の言葉しかありません。こうした指導教授と研究室の先生方、職場の上司らの理解や温かい励ましこそが私の学びの原動力になりました。

学位論文テーマ

博士論文テーマ

  • 経口化学療法を受ける再発、転移性乳がん患者の療養体験
  • 外来で治療を受ける進行再発大腸がん患者の語りを通した療養体験
  • 若年成人期にがんと診断された男性が人生を生きぬいていく経験
  • ICUにおける看護師の「触れること」:触れることはいかに生み出され、ケアに繋がるのか
  • 一般病棟でターミナル期にある患者に関わる臨床経験5年未満の看護師の経験
  • 後期高齢者が慢性心不全とともに生きる経験:日常生活に織り込まれる”からだ”
  • 透析患者への週末期ケアにおける困難を伴う看護師の経験

修士論文テーマ

  • がんの再発・転移のある壮年期女性患者の母親が抱く思い
  • 一人暮らしの終末期がん患者の在宅療養に携わる訪問看護師の実践
  • 外来化学療法室に勤務する看護師の看護援助の体験
  • 抗がん剤治療を継続する進行期肺がん患者の体験
  • 外来治療を受けながら生活する転移のある高齢前立腺がん患者の体験
  • 積極的治療を終了し在宅での療養に移行したがん患者の体験
  • 急性白血病に罹患し化学療法を受ける患者にとっての動くことの体験
  • 骨転移をきたして生活する乳がん患者の体験